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ぎっくり腰になった時~体の言い分に耳を傾けること~

ボディートークの第一分野自然体法は体の言い分を聞き、その要求に従って動きたいように体を動かしてしこりやゆがみを正す方法である。

体の言い分を聞くというのは、体の内部を感じることから始まるのだが、それでは脈拍をかんじることからやってみよう。 医者は患者の手首を持って脈を診る。他人の脈ならそれでいいが、自分の脈ならどうするか。医者と同様に、手首を握る人が多いが、そうする必要があるだろうか。一体脈拍とは何なのか。心臓から血液が押し出されることによって動脈に起こる周期的な鼓動である。もちろん心臓の鼓動と一致する。そうであるなら自分の心臓の鼓動ぐらい何もしなくても感じることが出来るはずだ。そしてさらに静かに意識を集中すれば、耳の後ろや手のひらに脈動を感じることが出来るようにもなる。これが内感である。動物の赤ちゃんの内感は鋭いが、我々大人は意識が外へ向かうため鈍くなっている。しかし内感は訓練すれば取り戻すことができるし、また更に高度に開発することもできる。そうしてこの内感によって、体のしこりやゆがみに気づき、体の言い分に従って素直に体を動かせば健康を回復するというわけである。その一例を私の実体験でお話ししよう。

 あるとき、私は職場でギックリ腰になった。ギックリ腰というのはご存じのように、ものを持ち上げた瞬間にギクッと激しい痛みが腰に走る。あの「魔女の一撃」のことである。痛みをこらえつつ体を預けて、ようようのことで帰宅した。ソロソロと横になり寝ていたのだが、その時ハッと気がついた。寝ている腰は痛まないのではなかろうか?

 まず腰の筋肉、骨の感じに意識を集中して、できるだけその感じを保ったまま、手や足を使ってソロソロと立ち上がった。自分の体に「こっちへ動こうか、それともこうかな」と自問自答しながら、体が「いいよ」と言う方向を探って起きていくと、結果的にはらせん状にゆるやかに回転しながら立ち上がることになった。こうして立ってみると、予感どおりあまり痛くない。恐る恐る「アー」と声を出してみる。さらに痛みが和らぐ感じがする。次に膝を少し緩めて体を上下に揺らしてみた。大丈夫、痛くない。内感によって自分の体に「いい?動いてみるよ」と相談しながら、体が少しでも気持ちよくなる方へと試したわけだ。

 少し勇気が出てきて足踏みをしてみた。やがて「ホッ、ホッ、ホッと」と言いながら、そうやって一時間も部屋の中を歩き回っていただろうか、ふと気がつく腰の痛みはすっかり取れていた。軽い発声とともに体を上下に揺らして歩くだけで、何故ギックリ腰が治ったのか?しかしこれは理論的にも当然のことなのである。ギックリ腰というのは腰の骨のいずれかがズレたためにその骨と骨の間から出ている神経が圧迫されて激しい痛みが走る症状である。腰骨は本来、正しい位置に戻りやすい構造になっているから、たとえズレたとしても体に柔らかい微振動を与えてやれば、あるべき位置に納まってくれる。骨が元に戻れば、その間から出ている神経は圧迫されないから痛みはなくなるという具合である。私はこの動きを「ペンギン歩き」と名付けた。誰がやってもヨチヨチと歩いているようなユーモアさとかわいさがあるからだ。