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熱い思いは、熱い息になると伝わる

*あなたならできるよ

ソルトレイクの青い空はどこまでも拡がり澄みきっていました。モルモン教のメッカ、アメリカユタ州にある街、ソルトレイク。私は30代の頃、ひと夏をそこでダンスのワークショップを受けながら過ごしました。ワークショップ受講の登録の日。「先生、私は重症心身障害者の方たちと接した経験もありま せんし、私の英語も充分でありません。ですからハンディキャップの人達のためのダンスのクラスを見学だけの参加にさせていただけませんか?」とお願いに行きました。

クラスを担当される先生は、見るからに穏やかな優しい表情の 50代の女性(K先生)でした。「いいですよ」という答えが返ってくると思っていました。
けれど先生の表情がキュッと厳しいものになり、一言「No!!」と強い口 調で言われたのです。そして、こう付け加えられました。

「アキコ、よく自分を見てごらんなさい。あなたは彼らと同じなのですよ。彼らはほとんど動けな いし、ほとんど言葉も喋れません。でも言葉が充分に喋れないあなただからこそ、誰よりも彼らの言葉が分かるのです。心と心で話せるのです。自信を持って中へ入りなさい。見学だけの参加は許しません。きっとあなたならできますよ。そして彼らがあなたを助けてくれるはずです」と、励ますように私を抱きしめて下さった時、先生の右手はマヒしていて動かない手であることを知ったのです。

*こんなに心が伝わるなんて!

この時の先生の言葉を忘れることはありません。大切な事をK先生は教えて下さったのです。先生のおかげで一ヵ月半の間、毎週専用バスに揺ら れ、車椅子に乗って施設から通ってくる彼らと一緒に学ぶことができました。 彼らは私を大変大事にしてくれました。私にできないことがあると、すぐに私を助けようと、動かぬ手を動かしながら、言葉にならない声を出しながらアドバイスをしてくれました。まともな英語での会話ではないのに、何の異和感もなく、まるで日本語で話しているかのように心が通い合うのです、不思議な感覚でした。

そしてセミナーが終わる2日前の夜、ソルトレイクの街の人を招待してのダンスコンサートが開かれたのです。『ハンディキャップの人達とのダ ンス』がラストプログラムとして置かれていました。

もちろん彼らは車椅子に乗ったままです。でも充分に動かすことのできない 腕、手、足、首、頭で表現されるその中に込められた熱い想いは息となって体中からほとばしり、自由に動ける私達ダンサーの動きをはるかに越えて、より自由に無限に雄大に拡がって、見ている人達の、そして共に踊りあっている仲間達を感動させたのです。

その中の一人として、踊れていることが嬉しくて・・・。 私だけでなく、出演者も観客もスタッフも全員が感動の波にあふれたコンサートとして終わりました。今まで経験したことのない、美しく厳かな踊りでした。

私だけでなく、誰しも熱い想いが息で伝わる体験はお持ちだと思いますが、私もまた嬉しいエピソードがあります。それは、次回にお話ししたいと思います。