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あったかいお正月を迎えましょう! ≪かさこじぞう≫

●シーッ しずかに
赤ちゃんが眠っている時、よく言う言葉「シーッ、しずかに」このシーッ という言い方で『しんしんしんしんしんしんしんしん ゆきふりつもる』を 読んでみましょう。目を閉じてこの詩を繰り返し聞いていると、まるで自分が 降り積もる雪の中に包まれていくような、そんな感覚になっていきます。
この感性で「かさこじぞう」を読んでみたい。そして話の中にネズミさんも登場させて欲しいという願いが叶って、増田 明先生脚色の『かさこじぞう』 が出来上がりました。その一節をご紹介いたしましょう。

●せめてお正月のお供えのもちこだけでも買えんかの~
‟すげで作ったカサを5つ持って売りに行けばもちこ買えんかの”

●物売りの声が響く歳の瀬
「ええ、まつはいらんか。 おかさざりのまつはいらんか」 「つきたてのオモチだよ~。モチモチやわらかくておいしいよ」 「タコ、タコ、よくあがるタコ~!天まで届くタコ、タコ、タコ~!」 大晦日の町は、門松やお餅や凧を売り歩く声が重なり、にぎやかでお正月を迎える喜びがあふれています。でも物売りに慣れないじいさまの声では、カサは売れそうにありません。

●雪の中をとぼとぼ歩くじいさま
「しん しん しん しん  ・・・」日が暮れ始め、雪も降ってきました。売れなかったカサを背負って、とぼとぼ歩くじいさまの姿がいっそう淋く映ります。

●冷たいおじぞうさまにカサをかぶせるじいさま
ヒューヒューと吹雪の中で冷たくなってしまったおじぞうさま。その六人のじぞうさま一人一人に、ふり積もった雪をかき落とし、頭や背中をなでながら 「お~お~さぞ冷たかったろうのう」と、赤子を腕に抱くような思いで声をかけ、どうにかして暖かさをあげたいとひたすら願うじいさま。その息の暖かさと手のぬくもりが、冷たい石のおじぞうさまの心と体に染み渡っていきます。

●何もないけれど、あったかい囲炉裏の火と

あったかいばあさまの言葉

もちっこ無しの正月だけれども、良い事をさせていただいたと、共に喜びを分かち合う暖かい心たっぷりのじいさまとばあさまの夫婦の姿。
ほんのり嬉しい餅つきの真似ごと。

♪こめのもちっこ♪ こめのもちっこ♪こめのもちっこ♪
ひとうすばったら♪ ひとうすばったら♪ ひとうす ばったら ♪あわのもちっこ♪あわのもちっこ ♪あわのもちっこ ♪ひとうすばったら♪ひとうす ばったら♪ひとうすばったら♪ ネズミも一緒に歌います。(増田先生が子どもでもすぐに歌えるメロディー に作曲されています)

●真夜中に聞こえてきたのは?

真夜中に、「じょいやさ じょいやさ じょいやさ じょいやさ」と、遠~く に聞こえる声。
かさこかぶせた かさこかぶせた かさこかぶせた じさまのうちはどこだ♪ するとネズミさんがいち早くその声を聞きつけて、
ココダ ココダ ココダっちゅうの♪ 大喜びでおじぞうさまを迎えに行きます。

●いっぱいの贈り物を積んだソリは重いよ、降ろしたソリは軽いよ。
「ズッサン ズッサン ズッサン・・・」と、おじぞうさまからの贈り物。米の俵、ゴンボや門松など、いっぱいの荷物を降ろし、おじぞうさまのソリは軽くなって、じょいやさ じょいやさと、かけ声軽く、遠くへ 消えていきます。

●じいさまもばあさまも、ねずみさんも
よいお正月を迎えることができました、とみんなでおじぞうさまに心から感謝しながら、おじぞうさまの歌、もちつきの歌を歌いながら、お正月さまを祝いました。

●貧しい時代にあった心の豊かさ
この『かさこじぞう』は、数年前の8月、熊本のボディートークマタニティ・子 育て全国大会、10 月の神戸光月の舞の会、そして 11 月の大阪の特別セミナー で、衣装をつけ、即興で参加者のみなさんが演じられました。短時間での作品作りで完成された形ではありませんでしたが、それでも40年も50年も前、 日本中の人が食べる物も充分なく、貧しくてひとつの物を分け合って暮らしていた頃にあった、心の暖かさと豊かさを思い出すことができました。

●おじぞうさま役になってみると・・・
この『かさこじぞう』の良さを知るには、一度おじぞうさま役になってみら れることをオススメします。私もヒューヒューと吹き叫ぶ吹雪の中で冷たくなって、じっと吹きっさらしの野原に立っているおじぞうさま役で立たせてもらいました。

そして、じいさまの暖かい息のセリフで声をかけてもらい、暖かくやわらかい手のぬくもりで体を触れてもらうと、「エ~ッ?この感覚は何?」 と不思議なほどに体中がホカホカになっていったのです。本物の暖かい息に包まれると、冷たく、固く、石のようになった心も体も解け、動かぬ心も体も動き出すんだなぁという実感が全身から湧いてきたのです。

そして更に感じたこ とは、外からは見えないけれど石の心、体にも、必ず内には暖かく感じるものを誰もが持っているにちがいないと言うことでした。
この『かさこじぞう』は、年老いていくことの美学や本当の心の豊かさとは何か。また、自然の中に生きる人のあり方や生命を見守り続けていてくれるものへの感謝などを教えてくれる、ステキなお話ですね。

子ども達に是非、語り伝えていけるといいなぁと思います。ちょっと今年は悲しかったこと、苦しか ったことが多かったなと思う人は、このお話を声に出して読んでみて下さい。 きっとおじぞうさまが、あったかいお正月さんをあなたに運んで来て下さると思いますよ。