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焦りの気持ちがやがて五十肩に

肩の力を抜くことは大変にむずかしい。抜いたつもりでも力ん でいることが多い。 ところで、肩に力が入っているのか否かを調べる方法がある。


まず二人で向かい合う。調べられる人は両腕をダラリと下ろし て静かに立っている。調べる人は、その人のどちらかの肘を持っ て肩の高さまで上げてみる。肩の力が抜けている場合はズシッと重みを感じる。平均的な女性の腕で5~6kgの重さはあるのだから、腕一本といえども随分重い。そして調べる人がその肘からサッと手を離すと持ち上げられていた肘はストンと下へ落ちるはずである。


これとは逆に、肩に力が入っている人の肘は持ち上げてみても重く感じられない。何故なら腕を自ら支えてしまっているからだ。このような人の肘は、手を離してもダランと下へ落ちては来ない。
「肘が上がったままだよ」と注意してやると、慌てて自分で手を下ろしたりする。


肩に力が入るのは精神的な要因であることが多い。即ち焦りの気持ちである。焦りの気持ちは肩甲骨の中央部にしこりを作る。そしてこのしこりは不思議なことに触られて初めて痛みを感じるわけなのだ。


肩甲骨中央部のしこりが更に強くなると、肩の付け根の筋肉が固くなって血行も悪くなっていく。 そうすると肩関節を中心にその周囲が炎症を起こす。やがて腕の方にも痛みが走り始める。俗に言う五十肩の症状である。五十肩になると痛みのために腕が上がらなかったり、肩に手が回せなくなる。そのために誰でも事ここに至れば治療を本気に考えざるを得ない。


運動療法としては、痛む方の腕を反対の手で握ってストレッチングを行ったり、アイロンをぶら 下げて腕を振ってみたり、痛む方の手でタオルを握って反対の手でそのタオルをいろいろに引っ張ってみたりするようだ。


この場合に一つ問題がある。それは息である。痛みをガマンして腕を動かすために息を詰めてしまうのである。息を詰めると筋肉は固くなる。だからボディートークでは声を出しながら運動を行う。

まず正座をして、次に両手を前につく。頭をストンと落とすと、両肩甲骨が最も高い位置になる。 この姿勢で「アー」と発声しながら上体を左右に揺らすのである。肩甲骨と肩甲骨とをこすり合わ せるイメージである。


虎が座っている姿に似ているので「虎の背揺らし」という。この運動は行うほどに背骨がよくほぐれて、上体がヘビのようにクネクネする。そうすると焦りのしこりがとれていくのである。


このように声を出しながら体を揺するのがコツであるが、発声は少し意識しないと出にくいもの である。折角「虎の背揺らし」をしていても、気がつけば黙ってやっていたというようなことがよくある。


座って体を震わせているのが「貧乏ゆすり」である。これは焦りの気持ちが無意識に足を揺すらせる。気が急くと息が速くなり、体が硬張ってくる。体はその緊張のエネルギーを本能的に逃がそうとして、最も動きやすい足を小刻みに震わすのである。傍目には見苦しく、せわしないので「貧乏ゆすり」と言うのであろう。


陸上競技界のスーパースターであるカール・ルイスも競技場で絶えず両足を震わせている。インタビューの最中でもやっている。しかし、この場合は「貧乏ゆすり」とは呼ばない。何故か。カール・ルイスもやはり心の緊張が足を固くす るので、足のリラックスのために行っているのであるが、実は意識的に動かしているのである。

意識的に行う場合は柔らく動かすので、緩急自在に震わすことができる。 ボディートークではこれに更に発声を加えて行う。
こうして体の緊張がとれると同時に息もほぐれるので気持ちも楽になる。
私はこの素晴らしい運動を「美貌ゆすり」と名付けた。