1

相撲を見れば息の合わせ方が分かる

「気が合う」とは「息が合う」ことである。二人で机を運ぶ時 も、息が合えば机を通してお互いにスムーズに歩けるし、息が合 わなければ肌が腰にぶつかったりしてギクシャクする。 

息を合わせることは中々に難しい。相撲では互いの息を合 わせるために何度も仕切り直しを行う。観ている方にしてみれば、早く立ち上がってほしいというところだが、力士が全力を出し切 るためには、息がピタッと合った最高のタイミングが必要なのだ。 そして実は仕切り直しの中で、行司も審判員も観客も、 息に向かって息を合わせていくのだ。あるいは一つの息を作って いくと言ってもいい。 

素晴らしい音楽会では、 奏者と聴衆が一体となって自 然に息が合ってくるものだ。 

相撲は更に積極的に全館がひとつになって、一つ一つの勝負毎に息を合わせるので、熱気が増してくる。これほど見事に競技者と観客とが一体となった息のすごさを見せてくれる競技は他にないのではないか。 

これほど凝縮された真剣な息合わせでなくても、私たちは仕事や生活で息を合わせるということを上手に活用したい。そこでボディートークでは、積極的に息を合わせるコツを得るためのプログラムを開発した。その中のひとつ、「飛行機ショー」というの を紹介しよう。 

二人ないしは数人でグループを作り、一人がリーダー、他はメンバーとなる。前列の人は座り、後列の人は立って、共に飛行機ショーを見る、という設定である。 

まず飛行機が、右上前方より飛来して目の前をビューンと通り過ぎ、左方へ去っていくのを見ることにする。初めは全員、右上前方を見ているのだが、リーダーは自分で想定した飛行機の動きに 合わせて「プーウウーン」と声を出し、首を振って左の彼方を見る。この時、他のメンバーはリー ダーの発声と気配だけで動きを察知し、全く同じタイミングでリーダーの動きと声に合わせる。 

成功すると、みんなで本当に飛行機を見ているように感じる。またそのパフォーマンスを見ている人には、誰がリーダーなのか見破ることができない。それほどピッタリと一致することができ る。 

「飛行機ショー」では一応、飛行機の飛ぶ方向をパターン化しておく。飛行機は右から左に左から右へ飛ぶ。リーダーはその都度「ブーウウーン」「ブーウゥーン」と首を振るのだ。 て最後に真正面から頭上を通過していく飛行機を見る。リーダーと共にメンバーは正面に向かい目を見開き、飛行機が頭上を通過する時は、一斉に両手を上げてびっくりポーズで真上を見る。リーダーのこの時の声は「ブーン、ウワァッー!!」もちろんメンバーも同時にこの声を出す。 

リーダがメンバーを無視してさっさと首を振ってしまうと、メンバーはとり残されてポカンとしている。リーダーのワンマンさで、独りよがりの様(さま)がはっきりと演じられるので、会場はドット笑い渦に包まれる。 

他人の都合を考えないで強引に事を進めてしまう人がいるものだが、そういう人は、 自分の強引さに気付いていないことが多い。「飛行機ショー」のパフォーマンスではそれが 端的に顕れる。日頃を隠すことはできない。 

反対にメンバーに気を遣い過ぎるリーダーだと、なかな 動き出せずに、そうこうしているうちにリーダーである事がバレてしまう。 

実際にやってみると、成功するには意外と難しいことが解るが、要は、リーダーにしろメンバーにしろ、体を柔らくして「気」が開いていないと、息の合ったチームワーク」 生まれてこないという事が実感できる。 チーム毎に十五分程練習すると、やがて全員の動きがスカッと合う組が出てくる。このようなチームはリーダーも優秀であるが、それ以上にメンバーが 晴らしい。

「飛行機ショー」は企業研修の中で「リーダーシップとメンバーシップの理想的な在り方」 感じるのに最適である。