1

声と響きから伝わる無意識のメッセージ

● 声や響きから伝わる無意識のメッセージ、 菜の花、土筆、蝶々と書けば、日本人の私たちなら自然に春のイメージが湧いてきますね。またその言葉をゆっくりと声に出して繰り返していると、どこからともなく、やわらかな春の花の香りが漂ってくるような気さえしてきます。

イメージを膨らませたり、イメージを言葉にするという営みの中で、 人とのコミュニケーションが成り立っている私たちの社会。でもそれは一日にして出来たものではなく、赤ちゃんの時から毎日毎日、長い時間をかけて言葉を繰り返しながら少しずつ身についたものですね。

生まれたての赤ちゃんを見つめながら、母親がやさしく語りかけるように我が子の名を呼びます。何度も何度も繰り返し、名を呼ばれることによって、 赤ちゃんはその声、その響きが《自分》を表す特別の言葉であることを学習していきます。一方赤ちゃんも、言葉にこそなっていませんが、自分の感覚や感情、表情やしぐさを声にして、母親へ一生懸命伝えようとしていきます。

● 名前の呼び方を変えてみると?
ところで、皆さんは自分の名前にどのような願いが込められてつけられたのかをご存知ですか? また幼い頃から自分の名前をどう呼ばれてきましたか。ちなみに私は家族 から「あっこちゃん」と呼ばれて育ちましたが、もし「あっちゃん」とか「あこ」とか呼ばれていたらどうなったのか な?と。。

「響き占い」について増田先生から教えていただいた時、考えたことがあります。そこで今回は、名前の呼び方を変えてみたら子どもの心や体に変化が表われた、という実例をご紹介したいと思います。

● アトピーが消えてしまった「タァちゃん」の話です。T君は、生後1年半を過ぎた第4子として生まれた男の子です。ボディートークの子育て教室での出来事

「この子はいつも落ち着きがなくて…。それにとても怒りっぽくて、時々、奇声をあげるんです」とお母さん。参加者数組の親子の中で遊んでいるT君の様子をしばらくうかがっていると、いつも周囲が気になるらしく、キョロキョロと見回し、一つの事に集中することが中々出来ません。不機嫌な表情で、ちょっと他の子と体が触れると、乱暴に手で相手を押しのけようとします。

そこに「みんなで食べようね」とお菓子が運ばれてきました。するとT君は両手でお菓子をつかみながら、次から次へと自分の口の中に放り込み始めました。見る見る、ほっぺがフグのように膨らんだかと思うと、突然「オェ!!」と思いっきり吐き出してしまいました。

すると、また目の前のお菓子を両手に取りながら、同じ動作を繰り返そうとしています。驚いたのは、お母さ ん。「タツ!」とあわてて飛んで行き、T君の両手をつかみました。T君は金縛りに合ったように身動きしません。

私は二人に近づき、T君をしっかり抱きとめているお母さんとT君の背中を、両手で包むような姿勢でそっと触れてみました。胸椎3番(切なさのしこり)と8番 (苛立ちのしこり)をキュッと固くしています。

二人とも全く同じ背中の状態です。そのしこりをほぐしながら、 お母さんに尋ねてみました。「普段、T君のことを何と呼んでいるの?」「タツです」「本当の名前は?」「タツヤです」「そうなの。それじゃあ今日から試しにタツヤ君のことを『タァちゃ ん』って呼んでみて下さい。それでいい?タァちゃん?」
T君は黙ったまま、じーっと私の目を覗き込むように見つめたままです。そこでお母さんとタァちゃんに、次のような説明をしました。

1  今までの呼び方「タツ!」は、まるで空気を切るかのように強く、冷たい息
であること。そういう声で呼ばれ続けていると、いつもT君は拒否されているのかな?とか、怒られているのかな?と思うようになっていきます。そうすると、自分の行動に自信が持てなくて、満たされない気もちで悲しくな ったり、苛立ったりと息が落ち着かなくなるのです。

一方、ゆっくり穏やかな息で「タァちゃん」と呼ぶと、名前を呼ぶ息があたたかで、その息にたっぷり包まれ続けると、自分を認めてくれているという安心感が湧いてきます。また母親がたっぷりと、気持ちを注いでくれている喜びで満たされてくることで息が落ち着いてくるのです。
教室の帰りには、すっかり「タァちゃん」もご機嫌になって親子とも笑顔で
“さよなら”ができました。

数日後、タァちゃんのお母さんから電話がありました。「本当に不思議です。 あれだけひどかったタツヤのアトピーが、すっかり消えてしまったんです。それに『タァちゃん』って呼ぶようになってから、とても穏やかで落ち着いた子になりました」との報告でした。

実は、タァちゃんを妊娠した時、第4 子でもう子どもはいらないと思っていた、という事。そして産まれてからもア トピーがひどく悩み続け、毎日イライラした気持ちで育児していたのだ、と話して下さいました。

ところが「『タァちゃん』と呼ぶようになってから、自分の気持ちがとても優しくなって、タツヤを可愛いいと思える余裕が出てきたんです。」と嬉しそうでした。そのタァちゃんも、今は5才くらいになっているはずです。そろそろ「タァちゃん」ではなく、「タツヤ君」が似合う男の子に成長しているかもしれません。

● 今の呼び名でご満足?
子どもに「自分の名前をどんなふうに呼んで欲しい?」という質問をすると、 時には意外な答えが返ってくることがあります。その答えの中には、子ども自身が自分に対して“こうありたい”という願いも含まれています。

「息は生き方」の言葉の通り、声の息と響きのあり方で人の心や生き方までもが異なってくるのですから、子どもの時だけでなく大人になってからでも遅くはありません。家族はもちろん、お友達同士でも、ちょっと楽しみながら呼び名を工夫してみるのもいいかも知れませんね。