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日本でのモンゴルの赤ちゃん

サラン・マンドホさんは、モンゴルの歌姫です。 若くして留学生として来日し、音楽を勉強しました。モンゴル人のボディートーク会員第1号です。 来日当初、ボディートークのセミナーに参加しましたので、「モンゴルの歌を聞かせて欲しい」と頼みました。広い体育館の片端で彼女が歌いだすと、その声にビックリしました。建物の中の感じが全くなくて、広々とした草原で風に乗って歌声が流れる、というのが実感です。決して大きな声を出してはいないのですが、大地にしっかりと立った力強さから発する伸びやかな声は、モ ンゴルの平原を彷彿とさせるものでした。

そんなに素晴らしい声が、数年後に聴いた時は魅力が半減していました。と言いますのは、日本に留学している数年間で、日本の声楽家にクラシックの発声を教わったからです。もともと歌のテクニックはすごいので、イタリア歌曲などを身につけたのは良しとしても、肝心のモンゴルの歌に草原の風が影をひそめてしまっては、何をか言わんやです。せっかく夢を抱いて来日したモンゴルの歌姫を、もっと大事に指導してほしいと私はヤキモキしました。

サランという名前は「月が昇る」という意味です。そして、やはりモンゴルから日本へ留学に来ている男性と結婚して、赤ちゃんを授かりました、名前はナリタとつけました。モンゴル語で「太陽が昇る」という意味だそうです。このナリタ君のお話をしましょう。

見るからに健康で、ずっしり構えたその風貌は、横綱の朝青龍にそっくりです。ところがこのナリタ君は、よく中耳炎になるのだそうです。またナリタ君だけでなく、モンゴルから来た留学生が、そのまま日本に移住して赤ちゃんを産むケースが多いのですが、その赤ちゃん達が日本にいると特に耳の病気にか かりやすいというのです

モンゴルの子ども達は幼い頃から踝馬に乗り、平原を駆け回る騎馬民族です。 骨格や筋肉をしなやかで丈夫なものに発達させています。体全体で馬の揺れをじ、その波にみずから積極的に乗り、馬と人の動きが一体となって、何の違和感も感じることなく、気持ちよく走り続けます。

走り行く馬の弾む振動は、子ども達の内臓や骨に伝わり、内臓は活性化され、 骨が強化されます。まさに≪馬の背揺らし≫や≪ペンギン歩き≫が、日常生活の中にダイナミックに、たっぷりと組み込まれているのです。ですから、モンゴルの大人の身体はがっしりとして、首も太く、たくましいですね。それでないと、すぐに骨折をしたり頚椎に支障をきたしたりしてしまいます。

モンゴル民族の遺伝子を持つ赤ちゃんにとって、成長をしていくのには上下動は必修事項なのでしょう。日本での車社会や狭い家屋での生活は、身体的にも精神的にも、満たされないものに違いありません。馬での上下動や振り子運動で、バランスを保っていた細胞が動かないので、機能低下になり不調を引き起こす原因になっているのでしょう。

体が揺れたり上下動することで、耳の中のリンパの流れが良くなったり、耳石をコロコロ動かして平衡感覚を保つわけなのですが、日本で育つモンゴルの赤ちゃんは、その動きが大変少なくなりますから、耳の不調に繋がるのではないではないかと考えています。

また騎馬民族は広い草原で体の中から声を出して響かせますが、日本にいると大きな声を出す事もなく、細胞レベルで満たされないものが、モンゴル人の赤ちゃんには重なっているのかもしれませんね。

そんな話をしてナリタ君をお母さんの膝の上で、馬に乗るような要領でピョンピョン跳ねるようにしてもらいました。すると、なんと驚くほど元気に活発に動き出しました。原初的な民族としての長い歴史の遺伝子のつな がりの深さを、赤ちゃんを通して教えてくれているのですね。

骨は重力方向と振動が加えられると、カルシウムの分泌が促され、強化されていきます。揺れ動く耳の振動が直接関与する、人の背骨を刺激したことで、 しなやかで強健な骨格が形成されていくわけです。モンゴル人の赤ちゃんには、 モンゴルの声や動きが大切なのです。