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どうして涙が出るの?前回の続き

● 自分で自分の心や鍵を開くには、ちょっと練習が必要です。

もちろん、この自分で行なう心ほぐし・体ほぐしとしての《あったかハンド》最初はなかなか反応が表れず難しく感じますが、諦めず繰り返して下さ い。徐々に上手になってきますから。コツは、ぬくもりのある手でそっと置くこと。出来るだけ赤ちゃんに語りかけるように、優しく暖かい息で自分の心に声かけをすることです。

声を発することによって、自分の暖かい息が自分の体を包んでくれるからです。反応のない人の中には、自分では 気づかないけれど、もう失感情症や失体感症のレベルまで進行していっている人もいます。

そんな時にはボディートークのブライベート・レッスンを是非受 けてみて下さい。

● 卒業していくあなたたちに贈る言葉

私はかつて、30年近く短大で女子学生の教育に携わってきました。3月には卒業していく彼女達に必ずこの言葉を贈っていました。「これからあなた達が歩いていく人生には、いくつもの困難があるかもしれません。そんな時、これだけは忘れずに思い出して欲しい。自分の生命の灯を自分の息で暖かく灯し続けて生きていって下さい」と。その、これだけというの が、《ボディートークあったかハンド》なのです。

● コウノトリさんにもお願いしたいこと

自殺する子どもは必ず胸椎3番を詰めています。その子らは自分の痛みを誰にも分ってもらえず、自ら自分の生命を絶っていきます。親にとって“我が子 が生命を絶つ”こんな悲しいことはありません。母親になる人は、我が子の死にたいほど苦しい息づかいに気づく力を持っていて欲しい。 これが私が短大教育の中にどんなことをしてもボディートークを入れていきたいと願った理由で した。(その夢は見事叶いましたが・・・)

誰にでできる簡単な方法の《あったかハンド》。今はできることなら、全世界の妊婦さんにも伝えしておきたい・・・と、夢は膨らみます。みなさんもお知り合いのコウノトリさんに《あったかハンド》を伝えてはいただけませ んでしょうか? どうぞよろしくお願いします。

<ボディートークあったかハンド応用編>

● 胸元をふんわりと包む工夫をしてみよう!

先月号に続いてのあったかハンドの紹介をしましたが、プライベート・レッ スンなどで胸椎3・4番を詰めていらっしゃる方にあったかハンドとともにこんなアドバイスをすることがあります。

それは胸元を《ふんわりとしたもので包んであげる》ということです。あっ たたかハンドを胸の上に重なるような感覚で、女性であれば絹や毛のふんわりとした素材のスカーフを胸元に重なるようにして装うのです。男性であればアスコットタイなどもお洒落ですし、胸もああたかです。外に装いが見えるのを好まれない方は、 服の下にふんわりとしたスカーフを置くのです。

自分の身は自分で守るという意識を持つあったかハンドは、とても効果的ですが、いつも両手を胸に重ねたままで生活することはできません。ですからその代わりにふんわりスカーフをするわけで す。

いずれにせよ、胸椎3・4番が温かくなり、息が楽になるというのは効果のひとつですが、《自分で自分の身をいつも守り続けていてあげる》ということを意識し、それを積極的に行動に移していくことが大切です。このアドバイ スを実行された方から「息が楽になりました」とか「自分にも他の人にもやさしくな ったような気がします」という報告をいくつも受けています。

でもこんなことをしなくても、日本の着物を着るだけで私達の胸元は幾重にも重ねられた布であたためられ、体全体がすっぽ りと包まれるのですから、こんな生命にやさしい装いを見直して、生活の中に取り入 れる工夫もいいかもしれませんね。




どうして涙が出るの?

● カウンセラーの胸の痛み

かなり前になりますが、毎年夏の終わり頃になると、音楽家、舞踊家、医者、カウン セラーなど、様々なジャンルの人達が集まってボディートーク・ロンドンセミ ナーを開いていました。増田先生のボディートーク流英語(時々は大阪弁も 交えて)でのセミナーは大好評で、いつも会場には笑い声が絶えませんでした。

セミナーの終わりに、そっと私の傍に来て「この頃胸の辺りが苦しく、何をしても気持ちが晴れないのです…」と、暗い声でつぶやかれた女性は、ロンドンでも有名なカウンセラーと評判の方でした。そのもの静かで理知的な顔立ちのEさんは、「家へ帰り一人になると、もうグッタリで何だか悲しくなってくるのです」との事。

「それは大変ですね。沢山の方々の悩みを、相手の身になって立て続けに聞いていかれるお仕事ですから、そのつど相手の方の苦しい息が、あなたにも伝わってきているのかもしれませんね。気づかない間にあなたの息も詰まってきているのではないでしょうか。そんな方におすすめしている方法がありま す。一度試みてみられますか?」と尋ねながら、《ボディートークあった かハンド》の説明をさせていただきました。

● あったかハンドの方法

① 自分の両手に「ハァー」と暖かい息をかけながら、しっかりこすり合わせ暖めていきます。

② 暖かくなった両手を、胸椎3番の胸側に重ねて、そっと置きます。

③ 手のぬくもりが体の奥に染み渡っていくイメージをえがきます。

④ そして「悲しかったねぇ~」とか「言いたいことが言えなかったねぇ~」などと、自分に優しく声をかけながら 語りかけます。

具体的に説明をしながら「このように、ふんわりとそ~っと置いて下さいね」 と、まず、私の手を彼女の胸に置かせていただきました、するとEさんの口から「フーッ」とため息が漏れ、それと同時に全身を緩み始め、やわらかくなってきたのです。

「このまましばらく暖め続けてみましょうね。一緒に 『悲しかったねぇ、辛かったねぇ、よく頑張ったねぇ』と声に出しておっし やって下さい」と言っているうちに、今度は彼女の目から大粒の涙が流れてきたのです。「不思議ですね。泣くつもりなど全くなかったのに、こんなに涙が出てくるなんて」と、自分の体の反応に驚かれ、ボディートークの体ほぐしの仕組みに感動されたのです。

手をあて、もう一度《あったかハンド》をされていると、涙がとめどなく次から次へ溢れてこられていました。そして、帰り際にはすっかり別人のようにスッキリされ、ほほえみを 浮かべたEさんになっていらっしゃいました。

● 赤ちゃん育て一年生ママの心と体

自分では何ともないと思っていても、E さんのように《あったかハンド》をやってみると、胸のところに異和感や痛みを感じてきて、「エーッ!どうして 涙が出てくるの??」と驚かれる人は、出産後間もない赤ちゃん育て中のお母さんに特に多いのです。

10ヶ月の妊娠期や生死をかけての出産と、心と体の大変化をようやく通過したのに、ホッとする間もなく、疲れを回復しないままに授乳、家事が待っている。そんな赤ちゃんを育てる一年生ママの生活は苛酷です。

昔から母親になる人は誰もが通る当たり前の道とはいえ、あまりの辛さ、 痛さに「泣きたいのは私の方よ!」と叫びたい時がいっぱいあるはずです。で もその辛さを誰にも言えずに一人じっと我慢し、毎日を過ごしている間にママは強くなって(?)いくのですが・・・

その強さは、悲しみや苦しみをなるべく自分では感じないように内に押し込め、《心や体に鍵をかけている》状態でもあるのです。ところがそれが暖かくホッとする手のぬくもりと自分の心をそのままに分ってくれる暖かい言葉(息 づかい)に包まれると、閉じていた鍵が開いて日頃押し込めていた感情がドッ と泉のように溢れてきて、ため息や涙が出てくるのです。

すると辛い状況 は変わらなくても心と体も楽になり、元気さが戻ってくるのです。こうして 《心と体の鍵をほどき息を楽にすること》は、ママの心や体のためでなく赤ち やんのためにもとても大切なことです。ガマンが限度を超えてくると、《マタ ニティ・ブルー》が重い症状となって出てきたり、時には《赤ちゃん虐待》へ と繋がっていくこともあるからです。(次回につづく)




魔法のしかけ

Kちゃんは外国で育ち、里帰りでおばあちゃんの家へ初 めて連れてこられました。しかも大好きなママはお仕事で、パパと二人道中です。知らない所へ、知らない人のお家へ泊まることになり不安いっぱいです。 パパの腕にしっかりしがみついたまま、片時も離れません。

ところが突然パパ が「ちょっとトイレへ」と、抱っこから降ろして行ってしまいました。さあ大変。Kちゃんは全身を震わせ、その場で大声で泣き始めました。おばあちゃんは、もうオロオロ・・・。

子育ての中でよくある光景です。私は 「パパはトイレだよ」といいながら、K ちゃんの手をひいてトイレの前まで行きました。「Kちゃん、パパどこ!って呼んでごらん。パパ!どこ!って」と言うと、 Kちゃんは泣きながら「パパ!パパ!」
「パパ!どこ?」と一生懸命叫び始めました。

私も一緒に叫びます。「パパ、ど こ?」すると「Kちゃん ここだよ」と、パパがトイレの中から答えてくれま した。パパの声が聞こえると、更にKちゃんは泣きながら、「パパ!パパ!」 と叫びます。パパがトイレから出てくると、両手を伸ばし、パパの腕に飛び 込んでいきました。

日頃、まだ「パパ!」という言葉があまり出なかったKち ゃんでしたが、それからは「パパ!」の言葉を頻繁に使うようになりました。

● 強い願いが生み出す動きと言葉

《強い願いが生み出す動きと言葉》のところで述べましたが、《自分の強い願い》が全力で《動くエネルギー》を生み出し、その動きが《願いの言葉》になっていく。この仕組みをしっておくと、赤ちゃんが言葉を覚えていていく。もしくは、赤ちゃんの手におっぱいを触れさせてあげる。すると必ず 赤ちゃんの方から、おっぱいへくっついていくのです。

些細なことのようです が、《自分の声を出し、自分の意志が相手に伝わり、その欲求が満たされた喜び》が赤ちゃんの《自立の心》を育てていくスタートでもあるのです。そして赤ちゃんが《自分の欲求》を伝えられたことをしっかり誉めてあげることも大 切です。

● 布オムツと紙オムツ

おしっこについても同様のことが言えます。オムツが濡れて気持ち悪くなっ て泣いて母親に知らせることも、赤ちゃんにとって大切なことなのですが、今は紙オムツになり、不快感がなるべくないよう工夫されていますので、赤ちゃんは不快感を合図するチャンスを取り上げられているのです。

赤ちゃんの心の成長からすれば布オムツの方がすぐれていることもお分かりだと思うのです。 そしてやっぱり「偉かったね。おしっこしたよって言えたね」「気持ち悪かったね~。気持ちいいしようね」「あーうれしい気持ちいい! 気持ちい い!」とまめにオムツを換える。その時の赤ちゃんの《感覚》《感情》をお母さんが繰り返し《言葉》にしてくことは、赤ちゃんの言葉の力がついていくこ とにつながるのです。

● お母さんが《魔法のしかけ人》になると

本当のあたたかい魔法のしかけ人は、赤ちゃんが気づかないように、そっと、ふんわりと赤 ちゃんの心の中に入り込み、赤ちゃんの心をそのままに言葉にしてくれるのです。そしていつの間にか魔法のしかけ人は、赤ちゃんの心から そっと上手に抜け出します。

その時には、もう赤ちゃんは少しずつ《自分の感覚や感情や意志》を《自分の言葉》で伝えられるように成長し始めるのです。お母さんが「あたたかい魔法 のしかけ人」になってくれた赤ちゃんが、どれだけ幸せかは、言わずともお分かりですよね。

Kちゃんの場合も、ただ「大丈夫、パパはおトイ レにいったのよ。すぐ帰ってくるよ」と抱っこしながらなだめるのも一つの方 法ですが・・・。この状況を、

1 自分の足で自ら動き、欲するものを探すこと(得ること)

2 相手が見えない時も、声を出して呼んでみることで、自分の存在を知らせることができること。

3  そこに《言葉》が加われば、より明確に自分の意志が伝えられ学習できるチャンスとして捉える方法

あなただったらどちらを選択され ますか?
あなたが言葉の通じない国へ一人で出かけたとしたら、英語で言えば「I’m hungry!」と「I love you!」を知っていれば大丈夫だと冗 談で話すことがありますが、赤ちゃんもお母さんのお腹の中から全く言葉の通 じない世界へ生まれるのです。

赤ちゃんの「おなかが空いた!」「おしっこ、うんこが出て気持ち悪いよ~!」「ねむたいよ!」という意思表示は生きていくための基本的欲求である、食欲、排拙欲、睡眠欲、それを《声を出して泣くこと》で相手に伝えようとしているのですね。

野生の動物の赤ちゃん達は、い も豊富にエサがあるわけではないので、親達がエサを運んでくると、我先に 争うように、鳥なら「ピヨ、ピヨ、ピヨ!」ち首を懸命に伸ばし、口を大き く開けてエサにありつこうとします。また猫であれば、「ミャーオ、ミャー オ」と他の子猫を押しのけてでも、おっぱいのところへ早く行こうと、スリ寄 っていきます。《生きていく》ためには、まず自分の全力を尽くして食べ物を ロにしようとするのです。

● 突然おっぱいが口の中に入れられてくる?

その視点に立つと、そろそろ授乳の時間だからと、赤ちゃんがまだおなかが空いたと合図もしないうちに先々とお母さんのおっぱいを赤ちゃんの口に持って行くのはどうかな?と考えさせられます。

お腹が空くと、赤ちゃん は泣くようになっているのです。泣き出してからお母さんが、「偉いね~ お っぱい欲しいって言えたね~」「おっぱい欲しいね」「さあ、おっぱいにしましょ」と声をかけながら、赤ちゃんの口から少し離れたところにおっぱいを持っていくと、赤ちゃんは口を近づけおっぱいをまさぐります。

この、自分でみずから食べ物を求める行為が赤ちゃんの自立心を養うことにつながるのです。




あたたかな魔法のしかけ

全身でやってみよう

「ヨーイスタート! しっかり押 して!」「もっともっと強く!」イモ虫 さん、ネズミさん、小鳥さん、アリスたちが大人のトランプたちに体当たりで ぶつかっていきます。トランプたちも負けずに押し返します。それでも小さな 子どもたちは、更に全身で大人たちに向かっていきます。

その押す力とともにセリフが発せられます。「やめて!やめて! 木を切らないで!」「何で切るん だよ!」「この木はみんなの家なんだから!」「私たちの大切な生命の木よ!」 と訴え続けます。これはミュージカル「不思議の国のアリス」の練習のワンシ ーンです。

● 強い願いが生み出す動きと言葉

「木を切らないで!」という《強い願い》が全力で相手にぶつかっていく 《動くエネルギー》を生み出し、その動きが《“願いの言葉》になっていきます。 このような練習を何度も汗びっしょりになりながら繰り返し、やがてそれが 《歌》になり《《踊り》へとつながっていきます。

もちろん《強い願い》を一人 一人が自分のものとして持っためには、このミュージカルの《テーマは何なの?》ということからみんなで考えて行く時間がたっぷりと必要となります、

段取りだけでセリフや振り付けを覚える――それをやってしまうと、心が ついていかないのです「何で木を切っちゃダメなのかな?」「世界の全ての木を切ったらどうなるの?」「木はどういう役割をしているの?」とたずねていくと、《植物や動物が生きるためには酸素がいること》や《地球環境はどうな っているのか?》の答えから、【木を切ってはいけない】の理由が分かり、子 ども達の木を切るなんて許せない!♪の歌い方が内から膨らみ、グンと力強くなっていくのです。

まだようやく歩き始めた生後一年半になるイモ虫役のはるちゃんも、お姉ちゃんやお兄ちゃんたちのパワーに乗って「ア~ア~!」と声を出しながらトランプに向かっていったり、ぴょんぴょん跳ねています。こんな微笑ましい光 景も加わりながら、幼児から80代の高齢者までもが一緒になって作り上げていける舞台の感動は格別です。

● 安心して自分が出せる場で育つ《意欲》

自分の感情を思いっきり全身で出したり、表現できる安心の場があることは 特に子どもの心の成長には欠かすことができないものです。舞台の日を目指して、何度も何度も練習を繰り返し本番に臨む。ドキドキするけれど勇気を持って舞台に立ち、やり遂げ、大きな拍手の中に包まれた時の感動。その感動が《自分はすごい!自分でできた》という喜びと自信になり、《もっとやってみ たい。もっとやってみよう》というエネルギーを生み出していくのです。

つまり、《I want to do! (意欲)》が沸いてくるのです。またそこに感動をともにする仲間がいれば、《感動》が共鳴し合って《意欲のエネルギーがより大きな力》となり、それが自分を支えてくれた人たちへの《感謝》へと発展 していけるのです。

● あたたかい魔法のしかけ

幼い時から内に思いがあるにもかかわらず、上手に自分の感情が外に出せなかった子や充分に言葉にすることが出来なかった子も、いつの間にか気がつくと、舞台が近づく頃には思いっきり声を出したり、自分の意見を言えるようになっていきます。でもそんな成果の裏には《あたたかい魔法のしかけ》が あるのです。

それは一つには、増田先生の脚本の力があります。子ども達の生命が輝くようにと熱い思いをこめて書かれた増田先生の脚本には、日ごろ思い切って出せない自分の感情や言葉がいっぱい宝石のように詰め込まれているのです。

それを全身で何度も繰り返し演じていくうちに、それが《自分の内なる感情や言葉》であったことに心と体が気づき、今度は《自分の奥底に押し込めていた感情や言葉》が沸き起こり、単なるセリフでなく《自分の言葉》となって輝き始めるのです。

この魔法のしかけにかかると子どもだけでなく、「あ、このセリフが言いた かったんだ!スッキリした!」とか「だからピーターパンの海賊の役はやめられないんだ!」とか、急にイキイキと蘇る大人たちも続出するのです。

● お母さんがあたたかな魔法のしかけ人になると?

そんなミュージカルに出逢えた人はとても幸運ですが・・・。実は子育ての 時、お母さんがこのあたたかい魔法のしかけ人になれると、赤ちゃんが素直に自分の感覚や感情を言葉にしていける道がつき、豊かな個性が育っていくので す。それは、増田先生のミュージカルの脚本の中にちりばめられていたセリフ ような役割を、お母さんがしていくのです。では、具体的な方法は次回にご 紹介することにしましょう。




そっと手を添えてみると

美しい動きとは、まっ白な半紙を前にフーッと息を深くして、たっぷりと墨をつけた筆先をそっと下ろし、想いをしたためる。穏やかなその姿からは、物静かな美しさが漂ってきます。筆を運んでいく右手はもちろんですが、半紙にそっと添えた左手も右手の変化に応じて、微調整を繰り返し文字を完成していきます。

ベンやワープロを使う時には、決して見ることのできないこの繊細な動き。 気がつくと、筋肉と神経を細やかにこなす所作が、今、日本人の生活から次第 に少なくなろうとしています。

● 木と紙と土の文化

鉄や石の文化と異なって、木と紙と土に包まれ創られていった日本文化。壊れやすいから、破れやすいからこそ、そっと大切に、丁寧にものを扱うことが必然だったのでしょうね。

四季がある日本は、温度、湿度が季節ごとに変化していく。それに適応して食べ物、衣服、住居が工夫され、私たちの心や体も、それらのものとの触れ合いの中で育まれていったのです。物にやさしく触れること が、毎日の生活の中にふんだんにあったのです、

唇に直接触れるものだからと工夫された、木製や陶製の食器。涼しさや暖かさを上手く加減できるような着物の工夫、素足での動き、感触が工夫された履き物、畳など…。でも今は、スプーン、コップを用い、洋服を育て、畳、障子、襖などない家で住む生活が増え、正座して両手を添えながら、そ~っと静かに戸を開ける所作など、普通の生活の中からは消えかけていっています。

≪揃える、添える≫と心と体が変わる? 熊本の6月のBTリーダーの研修会に、「みなさん、おはようございます」 さわやかな朝の挨拶から始まりました。

「今日は、挨拶の時の手の置き方に ついて考えてみましょう」「両手をこすり合わせ、暖かくした後に、両手の指を拡げて太ももの上に置いた時と、五本の指をそっと寄せてふんわりと置いた 時、どのように心と体に変化があるか、感じてみましょう」

目を閉じて実験してみました。「どうですか?」とたずねると、「指を揃えておくと、なんだか 指を拡げた時より、やさしく穏やかなあたたかさが体に伝わってくるみたい」とか、「自分が自分をとても大切にしている感じがする」などの答えが出ました。

昼からのマタニティの教室では、「ジーンズをはいて両膝をくっつけた時と、スカートをはいてくっつけた時では、どのような感覚が異なると思いますか?」の質問に、「スカートの時の方が直接太もものぬくもりが伝わりやすくなり、ホッとできる気 がする」などの答えが返ってきました。

(実は着物を着ると、両膝はいつも閉じている状態になり、着た人の心と体は包まれた感覚になり、ほっこりなれる のです。)

このように私たち日本人の生活には、≪息を内息にし、自分の内に気持ちを向けて、心や体を整えたり、まとめたり、温めたりできる≫所作が多かったことが分かります。

● 大切なものには手を添えてみよう。

赤ちゃんの頃から、お母さんがこういうことにちょっと感心を持つだけでも、赤ちゃんの心の育ち方が変わってくるように思えるので、赤ちゃんがおっぱいを飲んでいる時、さり気なく赤ちゃんの手を、おっぱいに持っていってあげましょう。自然に大切なおっぱいを感じていけるようになります。

哺乳瓶になったり離乳食を食べる時も、ただ口をポカーンとあけて、両手をダ ランと下げ、与えられる食べ物を待つだけの子どもでなく、≪自分の生命をつなぐ大切なものは、自ら積極的に手をばし、大事に感謝しながら、両手を添える、いただく、触れるという感覚≫が自然に身につくようになることでしよう。

大人になった私たちも、新鮮な気持でもう一度手を添える、揃えるなどを楽しんでみてはいかがでしょうか。

あなたの中に眠っていた、ほんわかした感性が目覚めてくるかもしれませんよ。
では、まずは両方の手のひらの指をそっと揃え、『水のこころ』の詩を読んでみて下さい。

水はつかめません  水はすくうのです

    指をぴったりつけて  そぉっと大切に

 水はつかめません  水は包むのです

    二つの手の中に  そぉっと大切に

 水のこころも  ひとのこころも




ストローでチュッチュッ、何だか美味しいね!!

ストローチュッチュッがお気に入り K君は3才になったピッカピカの保育園の一年生。朝になると「行かな い!」とむずがるものの、お母さんと保育園に行ってしまえばホイッと仲間の中に入って一日を過ごせる男の子です。 

通園し始めて2週間ぐらいして高熱になり、インフルエンザかな?と心配しましたが、次の日にはスーッと熱も下がり、お母さんは安心しました。けれど 熱を出した数日前から、お腹の調子が思わしくなく食欲も落ちていたので、朝食前とおやすみの前にあったかい牛乳を飲ませることにしました。

するとK君は、牛乳をまるでおっぱいを飲む時のような表情で、ストローで チュッチュッと吸い始めました。このストローチュッチュッがどうもお気に入りになった様子です。熱が下がった後もこのストロータイムは続いています。 「今までこんな事はなかったのですが、何故なんでしょう?」と、お母さんか ら電話での相談を受けました。

● 僕が開けたかったのに…

K君は生まれた時から、ボディートーク・マタニティ子育て教室に通ってい た、とてもプライドの高い男の子でした。ある時ペットボトルの蓋を開けよう としましたが、なかなかうまく開けることができません。傍らでそれを見てい たボディートーク指導者が、気を利かせて「ハイ!どうぞ」とその蓋を開け たとたん、突然「ワーッ!」と大声で泣き出しました。

「エッ!?どうしたの?」と大人達はびっくり。その頃のK君にとっては、 ペットボトルの蓋開けは、まだ新しい課題。それでもどうにか自分で工夫して やってみようと、一生懸命頑張っていたのです。大人にとっては、早く蓋を開けてお茶を飲ませてあげようという心づかいでやった事なのですが、K君は自分で蓋を開けて、自分で飲みたかったのです。

なのに蓋をとりあげられて、自分の出番なくして蓋はすでに開いてしまったのですから、悔しくて泣き出して しまったのです。

何でも大人と同じようにできるようになりたい。失敗したり、 できないところは見られたくない。《自分の力で、自分一人でできた》という喜びと誇りが、K君の次への向上心へと繋がっていくのです。

公園でスベリ台を見つけた時、すぐには近寄らず、遠くからお兄ちゃん達の滑るのをジーっと見ていて、誰もいなくなるとソーッと一人で確かめながら何回も滑る練習をする、慎重派タイプのK君です。

あれもこれも新しいことばかり、そんなK君をゆっくりと穏やかに見守ってくれていたお母さんとの生活から 一変して、新しい仲間との保育園の一日。赤ちゃんもいれば、年上のお姉ちゃ ん、お兄ちゃんもいっぱい。食事の時も、哺乳瓶からミルクを飲む赤ちゃんもいれば、マグカップからグイグイお水を飲む年上の子達もいます。見ること、 することが、次から次へと新しいことだらけで、K君の頭も心も体も大忙しです。

● 幼児がえり・赤ちゃんがえりは、大切な反応

新学期が始まる4月は、個人差はありますが 、子どもも大人も少なからず、K君と同じように環境の変化が大きな時期なのです。特に生命が繊細な幼い子どもの頃は、自分の体や心に大きな変化があったり、不調が起こると、内息になりがちになります。そしていろんな形で《幼児 がえり、赤ちゃんがえり》になることがあります。

外や内の大きな変化を受け止め、それに適 応していこうとするエネルギーがより必要となり、《内なるエネルギーを充実させていこうとする営み》が《幼児がえりや赤ちゃんがえり》になって表れているのです。

電池で動くおもちゃを考えてみると、よく分かります。動かせば動かすほど エネルギーが減っていくので、充電が必要になってくるというシステムです。 赤ちゃんが生きていくためのエネルギーは《おっぱい》ですが、それは単に栄養の補給だけでなく、お母さんのふんわりとした皮膚とのふれあい、匂い、優しい眼差し、あったかい息づかいなどを含めての、まさに心と体のオアシスで もあるのです。

K君がミズカラ選んだストローでチュッチュッという行為は、一気にコップ から飲むのと違って、おっぱいを吸っていた時の唇や舌の使い方に近いのです。 K君の体は無意識の中にそれを知っていて、自分の心と体のオアシスへ行って、 新しい保育園生活に必要なエネルギーを補給しようとしていた訳です。

また、 朝起きたばかりの時や、夜、少し眠くなってきた時は副交感神経の働きが優位になり、昼間の緊張が緩んでいるので、《赤ちゃんのような心と体》になりやすくなる、オアシスタイムでもあったのです。自分でオアシスを探し当てたK 君に、「いいぞK君!」と何だか誉めてあげたくなりました。

● 一緒にストロータイムを楽しもう

「K君は、保育園や家の外ではストローでチュッチュッはしないでしょう? お家の中だけ、しかもお母さんと一緒の時だけそうするのではありません か?」と尋ねると、「ハイ、そうです」との答え。「やっぱり。K君らしい ですね」と、思わず微笑んでしまいました。他の人の前では、いつもカッコイ イ、立派な男の子でいたいK君なのです。

お母さんと二人で、K君の成長ぶりを喜び合いながら、「できれば、お母さんもK君と一緒にストローで飲んだらどうでしょう?恋人のように見つめ合いながら、『ストローで飲むと何だか美味しいね』って言ってみるのもいいか も?」

ちょっとシャイな表情でニッコリするK君の笑顔が浮かんできそうです。 “さり気なく、子どもの心に楽しみながら寄り添っていく” お母さんに とっても、きっと素敵なひとときになれることでしょう。




ママにハートのリュックあげる

Nちゃんのママは、出産の間近まで大好きなバレエを踊っていました。ママも3 才の頃から踊り始めましたが、Nちゃんはお腹の中から踊っていて、生後4ヶ月の赤ちゃんで、初の舞台デビューをしました。赤ちゃんを囲んでの、ホットファミリーな振り付けをしました。

今年の舞台では、ママが“オズの魔法使い”の、かかし役に選ばれたので、バレエ 作品ミュージカルと、ともに何回もの早替えで大変で、3才になろうとするNちゃんのお世話は、ほとんど出来ない状態でした。

それに加え、諸事情で急にバレエの指導者的立場に立たされることになったママは、出演者の諸々のお世話役も一緒に担当することになりました。練習に来る時は、いつも両手両腕に大荷物でいっぱい、 帰るのも戸締りをしていつも一番後でした。

Nちゃんはそのママとずっと一緒に行動していました。ある夜のこと、遅くの練習も終わり、私がお手洗いから戻って、みんな帰ってしまったはずの練習会場の扉を開けると、Nちゃんがママと 一緒に、その小さいな手で机をひとつひとつ、きちんと並べそろえていました。

Nちゃんのママは幼い頃からよく踊れる子どもでした が、「舞台で輝くには、楽屋や人の見ていない所でも輝く人でなければ本物ではない」というモットーの下に育てられました。

沢山の子どもの中でも、彼女は嫌な顔ひとつせず、人のいない所でいつもガムテープでゴミを拾ったり、お掃除をあたり前にやっている子どもの一人でした。私はそのことを、あえて誉めることなく、黙って見つめ続けてきました。誉められるからするのではなく、評価のない所でも“真心”で動ける子どもに成長して欲しかったからです。

舞台が間近になったある日のこと、Nちゃんママが私にこういう報告をしてくれ ました。「先生、この前とてもとても嬉しいことがあって、思わずNを抱きしめて、 泣いてしまいました」と。

—- Nちゃんが何かセッセと一生懸命作っているので、 「何をしているの?」と尋ねたら、「ハートのリュックを作っているの」と答えるので、「それ、どうするの?」と聞くと、「ママがいっぱい頑張っているから、ママ にもこのハートのリュックをあげるの」と言ってくれた — という。

思わず私も涙が出てきてしまいました。(オズの魔法使いで、ハートのリュッ クをもらえるのはブリキマンなので、Nちゃんはママにもあげたかったのですー 下記に補足あり)ゆりかごの中から踊ってきた赤ちゃんが、いつの間にか、このように心も体も成長していたのです。

舞台の終わった日、打ち上げも終わり玄関前に積まれた沢山のゴミ袋を、誰がどのように分担して持って帰ろうか、と主要メンバーで話し合っていました。とこ ろが、サッサとNちゃんが自分の背丈ほどもある大きなゴミ袋を引きずりながら、 運んでいこうとしているのです。

「Nちゃん、ありがとうね。今日はみんなが持って帰るから、Nちゃんは持って帰らなくてもいいのよ」Nちゃんは納得して、今度は自分の大きな荷物を持ち直し、ママの車へと元気よく歩いていきました。

ボディートークの体ほぐしも、門前の小僧で、とっても上手に身につけたNちゃん。ママの後ろ姿をしっかり見ながら、大きく成長していっています。

私が30数年も舞台を続けていけるのは、照明もメーキャップも衣装もないけ れど、このような舞台の裏に展開される、熱い想いのもうひとつの美しいドラマを 見ることができるからかも知れません。

ボディートークのマタニティや子育ての考え方のひとつに、「まず、ママの心と 体が楽になり、弾み、幸せになるようにしましょう。 ママの生命が膨らみ、輝き始めれば、赤ちゃんや子どもの生命も“オノズ”と輝いてきますよ」があります。

晴れ渡った明るい秋の月夜、その月の光を浴びながら、元気に帰っていくNちゃんとママの後ろ姿の輝きを、嬉しい思いで消えるまで見送っていました。

* ミュージカル『オズの魔法使い』は、子ども達に、 “知恵と勇気と心の大切さ”を伝えるために作られた作品です。大魔女イブリ-ーンをみんなの力で倒し た後、オズの魔法使いからご褒美に、知恵の欲しかっ たカカシは知恵の象徴『帽子』を、勇気の欲しかっ たライオンは『マント』を、そして心が欲しかった ブリキマンには『ハートのリュック』を貰えるシー ンが演出されています。




然り気なくってステキだね

増田先生の夢のバイオリンが始りました。生まれて初めてバ イオリンを手にした時の感動は、今でも鮮明に体に残っています。どんな人でもやさしく美しい音色が弾けるこの手法には、いくつものボディートークの知恵が隠されているのです。

弓を持つ人の手に、然り気なく添えられた増田先生の手。そのやわらかさと暖かい息によって心と体が魔法にかかったようにふんわりとなり、優しい音色となるのです。

傍にいるその存在さえも感じさせないほどの然り気ない寄り添い方は、絶妙です。ボディートークの《ツインボイス》と同じ原理です。歌っている人、演技している人など、本人が気付かない間に、そっとその人の内に入ってきて内を膨らませてくれる《その然り気ない支え方》は、ボディートークならではのものでしょう。

子育ての中でも、この原理はいろんな場面で役立ちます。マタニティ・子育ての教室に参加した、1才のK君は、自分の胸くらいの高さのガラスのつぼに、小さなカラフルなゴムボールを投げ入れる遊びに夢中になりました。ちょうど手の届く高さにあった 20 個ぐらいのボールを次々に投げ入れ ていきます。もう数個で無くなりそうになった時、私は然り気なくボールをその手の届く所に置きました。

K君はそんなことは気付かず、せっせとボールを投げ続けます。この時期の子どもが興味あることに集中すると、そのエネルギーは大人とは比べ物にならないほど大きいものです。

なぜなら、新しい神経回路は同じ動作を何度も繰り返し成功することによって、強いニューロンとなって結びつき、学習効果となっていくのですから。日々成長していく子どもにとっては、その集中は必然で、一つ一つの成功は全身の快感となっているのです。

それでも、もうボールが手元から無くなりかけてきたので、傍にいた指導者がボ ールを拾ってきて、「ハイ、どうぞ!」と声をかけて渡そうとしました。す るとK君は、その声にびっくりして体を固めてしまって動かなくなり、もうそれからはボール投げはやめてしまったのです。

K君の神経回路が、突然かけられた声に反応して、ボールを投げる動きをストップさせてしまったのです。ほんのちょとしたことでしたが、《然り気なく》の大切さを教えられたエピソードでした。

舞台作品に『月夜におどろう』という踊りを、毎年、私は幼い子ども達のために プログラムに入れています。まだ歩くのもやっと、という赤ちゃんもウサギのお耳をつけると、喜んでピョンピョン元気よく跳ねてくれます。

一応振り付けはあるの ですが、「1,2,3,4」と号令をかけて踊りを強制すると、幼い子ども達は動けなくなります。お地蔵様やお兄ちゃん、お姉ちゃんウサギの中に混って、自分もピョンピョン跳ねるウサギになっているのです。

大勢の中で踊っても、周囲の子ども達同士も、決して幼い子とぶつかりもせず、 自由に踊りながら、その中で《然り気なく》お互いを包み合い、支え合う感性を本能的に膨らませていくのだと思います。

踊りの情景となるお地蔵様にお供えさ れた月見だんごや、飾られたススキや野の草花も、然り気なく子ども達を包んでいてくれます。こんな然り気ない、自然や人の暖かさに包まれ、喜び弾む子どもの姿 は、キラキラと輝き、観る人の気持ちをほのぼのとしてくれました。




生きる力を育てるチャンス

● トマト美味しいね

今日は、トマト嫌いな子が好きになるというお話から始めましょう。かつ て私が勤務していた短大で保育学科を増設し、そこに音楽コース・英語コース・園芸コースを開設することになりました。

学長とともに出かけた文部科学省に、新設のための説明会で、「何故、園芸コースを置くのですか?」と質問さ れました。私は「子どもが土に触れ、植物を育てていく中で≪生命の在り方≫を喜びや感動とともに自然と学んでいけるから」でした。

園芸コースに入学した学生達は、まず土作りを教わり、トマトの苗を植え、
トマトの成長を待ちました。そして太陽の光をいっぱい浴びて真っ赤に熟したトマトを口にした学生達は、「あ~、美味しい。こんな美味しいトマト食べたことない!」と、皆飛び上がるように感動し喜びあっていたのです。

きっと生まれて初めて自分で作ったトマトの味は、格別だったのでしょうね。
やがて、その学生達が就職した保育園では園児達が、彼女らが学生時代にそうであったように大切にトマトを育て、それを給食で食べているそうです。

するとトマト嫌いだった子も、トマト大好きな子に変身していくという、嬉しい 報告が入り始めたのです。子ども達は毎朝、園に来ると、一目散に走っていくのが自分の植えたトマトのところ。毎日毎日、「早く大きくならないかな~。実がつかないかな~」と、楽しみながらお世話をしていくのです。

● 木を見つめる心

≪自分が時間をかけ心を込め関わっていくと、関わったものが恋しく、大切なものとなっていく≫手間暇かけ、気長に見守り続けることを、日本語では 『想い』という言葉で表わしているそうですが・・・(木が大きくなるには随分と長い年月がかかります。年輪がいくつも刻み込まれて木の成長を見守り続ける。心をいれると『想』という字になりますね)

自分の体を通しての想いが加わると、嫌いなトマトが大好きなトマトになって いくという体験をした子ども達は心にとって大切なもの。トマトと一緒に自分を育てていたのですね。

● オッパイ探せたよ!!

トマト作りのように、人間は自分の食べ物を栽培した り養殖したりする知恵を持っていますが、野生の動物達はエサは自分で動き探 し回って、ようやく得ることができるのです。ですから動けなくなることはエサを探すことが出来なくなることであり、すぐさま死と直結していきます。

動物も人間の赤ちゃんも、生まれるとすぐに自分で動いて、自分が生きていく食べ 物であるお母さんのオッパイを探そうとします。自ら(ミズカラ)エサを探す、これは動物の本能であり、生きていく力のベースです。でもたいていのお母さんは、抱っこしている赤ちゃんの口の中に、お母さんが乳首を持っていらっしゃいます。

赤ちゃんが早くオッパイを飲めるように、準備してあげるのもいいかも知れませんが・・・。実は授乳の時、ちょっとした工夫 で赤ちゃんの自分で生きていこうとする力がグーンと育っていくのです。

≪生きていく力をアップする授乳方≫

少しだけオッパイを赤ちゃんの口元から離して置きます。そして赤ちゃんが手を伸ばしたり、顔を動かしながら、自分でお母さんの乳首に吸い付いていくようにしてあげるのです。赤ちゃんが「ヤッタ! 自分でオッパイを探し当てたぞ!」と喜ぶチャンスを作ってあげるのです。

1 お腹を空かせて赤ちゃんが泣き始めます。

2 お母さんは、「エライネ~お腹空いたって言えたネェ~」と一回ごとに一 一緒に喜んであげます。

3 オッパイを口元の傍のところへ持っていきます。

4 赤ちゃんがオッパイを探し当て、自分で口に含み飲み始めます。

5 そこで「スゴイネェ!! よく自分で探せたネェ、エライネェ~!」と一回
ごとに一緒に喜んであげます。 その度に赤ちゃんは、自分で望むものを自分の努力で得られた充実感に満たされていくのです。こうやって幾度となく繰り返される毎日のこの行為の中から自ら生きていく力が育ち、親子の絆も強くなっていくのです。




伝えよう、生命を守る知恵

♪ 水はつかめません。 水はすくうのです

指をぴったりつけてそっと大切に ♪

これは以前にもご紹介したことのある、『水のこころ』という歌ですが、熊本地震が起こったとき、熊本や大分の会員の皆様の心の痛みを少しでもこの両手にそっとすくい、あ たためてあげられたらと、そんな思いでこの歌を歌わせていただいています。

偶然の一致とも言えるように、ちょうど会報で『カメさんは怖い時どうしてる?』の原稿を書き上げ、ペンを置いた瞬間、突然、携帯電話の音が鳴り響き、グラグラッ〜。 福岡に私はいましたが、かなりの揺れでした。

● 頭はクルクル、体は石の防弾チョッキ

最初の数秒は何が起こっているのか、???の状態になりましたが、阪神大震災を 大阪の高層ビルで体験したことのある私でしたから、さほどパニックにはならず冷静でした。ところが夜中になっても連続する大きな振動に、これは今までとは違う、次 の事態に備えて何をどうすればよいのか、と準備を始めました。

頭はクルクルと超ス ピードで回転していきました。
90才の母と一緒に、どこへどのように避難するのがベストなのか? 母の薬は? 食料は? 衣服や貴重品は? 全速力で24時間openのマーケットに駆け込み、頭もクルクル超スピードで回転しながら一晩を過ごしました。(幸い福岡は次の日はそれ ほど強い揺れはなく、避難所も解除されました)

大きな揺れが来た時は、安全な場所を探し、うずくまりました。「ウァ~!!」と、言いながら積極的に体を揺すると、 体が固くなりにくいと感じ、その動きを繰り返していました。しかし、そうしたにもかかわらず、数日後に母に体ほぐしをしてもらうと、今までに体験したことのないほど体全体を固めていました。

地震の翌日から何人ものプライ ベート・レッスンをしましたが、やはりどの人の体も普通の生活でのレベルと異なっ た石のような固さでした。本人はそう感じていなくても、地震が続くと生命を守るた めに作る体の防弾チョッキはこんなにも固くなるのだと感心するばかりでした。

● 生命の危機から自分を守るためにかけた体のカギ・心のカギ

私は今回の地震で、心を通して体をほぐすボディートークの体ほぐしのすごさを、 我が身を通してより深く、また新鮮に体験することができました。それは、

(1)体のしこり・心のしこり(体のカギ・心のカギ)は、自分の生命を
守るためにかけるものであること

(2)カギを開くには、自分の内から開けたいというエネルギーが湧き起
こらなければ開きにくい

(3) 自分の力ではカギが開きにくい時、そこに外からのあたたかい息と手のぬくもり、そしてカギをかけた時の心の状態を表す明解な、しかも共感レベルでの言葉が必要である。ということでした。

また、2のステップになると、私はガタガタと体が震え始め、どんなに熱いオフロや熱いシャワーを浴びても寒さが続き、その後に急に高熱が出始め、そうなると涙が次から次へと流れ出し、「怖かった」とか「助けて欲しかった」との言葉も出しなが らカギを開けようとしていきました。

● フラッシュバックして大掃除

そしてもう一つの新しい貴重な体験をもすることができました。地震のことでかけたカギだけではなく、心の奥の奥に押し込めていた、もう自分ではほとんど忘れてい た幼い頃の心のカギまでが開き出し、一緒に揺れ動き、出ていったのです。

内なるエ ネルギーが火山のマグマのように噴き出してくると、フラッシュバックが起こり、「怖かった」「助けて欲しかった」「傍にいて欲しかった」などと言葉に出しながら、一気に心の大掃除をしていったのです。まだ他にも発見がありましたが、 それはまたの機会にお話しすることにいたしましょう。

● あたたかい息と手のぬくもりで生命を守るボディートークを届けよう

TVでエコノミー症候群 やメタボリックシンドロームにならないようにと紹介されている映像を見た時、皆さんはどう感じられましたか? 「ゴキブリ体操 は声を出してやって欲しい」とか「足をほぐすには、温泉たまごをお互いにやってみて欲しい」と思わず言いたくなりませんでしたか?

今、私はこれから全国どこにでも起こりうる災害のために、子どもも大人も誰も がやれる、もっと効率の高い即効性のある、より役に立つ心ほぐし・体ほぐしを 工夫し、伝えていけたらと願っています。 すでに、もういくつかの新しいほぐし方も考え、セミナーやプライベート・レッ スンで実習していただいています。

これからも、あたたかい息と手のぬくもりを添えて“ボディートークの生命を守る知恵”がより多くの方へ届いていきますよう、努力していきたいと思っています。