ボディートークコラム

一触即発の鋭い反応

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バリ島のケチャック・ダンスを御存知だろうか。ヤシ油の燭台を中心に、数百名の男たちが幾重もの円を作って車座となる。「チャック」と短く鋭い叫び声で、男たちが別々に個有のリズムを刻むと、そのリズムが見事にからみ合い、全体として一つの力強いリズムを生み出す。その強烈なリズムの輪の中で、きらびやかな衣装を身にまとったバリの娘たちが「ラーマーヤナ物語」を踊り、演じていく夕闇の中、ヤシの木陰の村の広場で繰り広げられる、

この幻想的な民族芸能は、西洋音楽には見られない特有のアンサンプル原理を持っている。そもそも数百名もの男たちが別々のリズムを刻みながら、どのようにして一つ にまとまることができるのだろうか。西洋のオーケストラでは前に立った一人の指揮者が全体を統一する。

しかしケチャック・ダンスでは、 その時々の動きの合図を送る人はいるものの、指揮者なしで互いに互いの気を寄せ合い、高め合って全員の総力 で一体となるのだ。双方の組織の在り方を一言で述べるならば、西洋のオーケストラはリーダーシップ型、 東洋のケチャック・ダンスはメンバーシップ型、と言えるだろう。

チームをまとめるには統率力のある、有能なリーダーを必要とすることは言うまでもない。ところがリーダーが優秀であっても、チームの気力が今ひとつ燃えない、ということがある。即ちメンバーの側は、リーダーの指示通りに動けばいいという意識がある だけで、メンバー自らの積極的な意思を持っていない場合だ。

人は自発的に行動する時、最も生き生きするものである。とすればチームがすごいパ ワーを発揮するには、メンバーの自発的な、積極的な力を結集する必要がある。この強力なメンバーシップの秘訣がケチャック・ダンスにあるのだ。

十数年前、私はケチャック・ダンスを学ぶためにバリ島を訪れた。日本の劇団でケチャックを取り入れたミュージカルを上演するためである。一カ月間、朝から夕方まで村の指導者から直接、伝授してもらったのだが、宿舎の庭先で「チャック、チャック、 チャック・・・」と叫び声を上げていると、村の人たちが集まってくる。その中にはケチャックの出来る男性もいたから、練習に加わってもらった。

するとその人は、それまではニコニコと笑って見ていたのに、練習に参加したとたん食い入るような眼差しで私の一声に集中をしている。少しでも私が動こうものなら、すぐさま反応してくる。まさに一触即発という気配だ。その迫力に私は声を出せなくてタジタジとなったことを覚えている。

ケチャック・ダンスの見事さは数百名の男たち全員が、互いの動きに対して一触即発の反応の鋭さを発揮していることにある。そして一人でも鈍いリズムを発すると全体のリードが崩れてしまう。リーダーの合図について動くという感覚では、既に遅れている のだ。リーダーとメンバーが同時に動くという感覚があって、初めて成功する。

では、メンバーがリーダーの指示と同時に動くためには何が必要か。「良きメンバーシップの条件」として述べよう。

1. メンバーはリーダーの指示を予感する
メンバーは、この「予感する」という自覚が大切で ある。ボディートークの人間関係法プログラム「飛行機ショー」に於いて、リーダーの声や動きとピッタリ合うには、メンバーはリーダーの一挙手一投足に最大の注意を払い、指示を予測する。そうすれば同時に動くことができる.またその行動の在り方の中にメンバーの自発性が発揮される。こういうメンバーと共に仕事をすれば、リーダーは引っ張っていくしんどさを感じないし、仕事の中身そのものに集中することができる。

2.  メンバーは後走りしない。
リーダーの先走りも困りものだが、メンバー の後走りもチーム力を減退させるものである。 後からついていくのは楽であるが、仕事を共に仕上げる爽快感は味わえない。リーダーの能力を最大に引き出す鍵は、メンバーの、この機敏性にあるのである。

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