ボディートークコラム

ママにハートのリュックあげる

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Nちゃんのママは、出産の間近まで大好きなバレエを踊っていました。ママも3 才の頃から踊り始めましたが、Nちゃんはお腹の中から踊っていて、生後4ヶ月の赤ちゃんで、初の舞台デビューをしました。赤ちゃんを囲んでの、ホットファミリーな振り付けをしました。

今年の舞台では、ママが“オズの魔法使い”の、かかし役に選ばれたので、バレエ 作品ミュージカルと、ともに何回もの早替えで大変で、3才になろうとするNちゃんのお世話は、ほとんど出来ない状態でした。

それに加え、諸事情で急にバレエの指導者的立場に立たされることになったママは、出演者の諸々のお世話役も一緒に担当することになりました。練習に来る時は、いつも両手両腕に大荷物でいっぱい、 帰るのも戸締りをしていつも一番後でした。

Nちゃんはそのママとずっと一緒に行動していました。ある夜のこと、遅くの練習も終わり、私がお手洗いから戻って、みんな帰ってしまったはずの練習会場の扉を開けると、Nちゃんがママと 一緒に、その小さいな手で机をひとつひとつ、きちんと並べそろえていました。

Nちゃんのママは幼い頃からよく踊れる子どもでした が、「舞台で輝くには、楽屋や人の見ていない所でも輝く人でなければ本物ではない」というモットーの下に育てられました。

沢山の子どもの中でも、彼女は嫌な顔ひとつせず、人のいない所でいつもガムテープでゴミを拾ったり、お掃除をあたり前にやっている子どもの一人でした。私はそのことを、あえて誉めることなく、黙って見つめ続けてきました。誉められるからするのではなく、評価のない所でも“真心”で動ける子どもに成長して欲しかったからです。

舞台が間近になったある日のこと、Nちゃんママが私にこういう報告をしてくれ ました。「先生、この前とてもとても嬉しいことがあって、思わずNを抱きしめて、 泣いてしまいました」と。

—- Nちゃんが何かセッセと一生懸命作っているので、 「何をしているの?」と尋ねたら、「ハートのリュックを作っているの」と答えるので、「それ、どうするの?」と聞くと、「ママがいっぱい頑張っているから、ママ にもこのハートのリュックをあげるの」と言ってくれた — という。

思わず私も涙が出てきてしまいました。(オズの魔法使いで、ハートのリュッ クをもらえるのはブリキマンなので、Nちゃんはママにもあげたかったのですー 下記に補足あり)ゆりかごの中から踊ってきた赤ちゃんが、いつの間にか、このように心も体も成長していたのです。

舞台の終わった日、打ち上げも終わり玄関前に積まれた沢山のゴミ袋を、誰がどのように分担して持って帰ろうか、と主要メンバーで話し合っていました。とこ ろが、サッサとNちゃんが自分の背丈ほどもある大きなゴミ袋を引きずりながら、 運んでいこうとしているのです。

「Nちゃん、ありがとうね。今日はみんなが持って帰るから、Nちゃんは持って帰らなくてもいいのよ」Nちゃんは納得して、今度は自分の大きな荷物を持ち直し、ママの車へと元気よく歩いていきました。

ボディートークの体ほぐしも、門前の小僧で、とっても上手に身につけたNちゃん。ママの後ろ姿をしっかり見ながら、大きく成長していっています。

私が30数年も舞台を続けていけるのは、照明もメーキャップも衣装もないけ れど、このような舞台の裏に展開される、熱い想いのもうひとつの美しいドラマを 見ることができるからかも知れません。

ボディートークのマタニティや子育ての考え方のひとつに、「まず、ママの心と 体が楽になり、弾み、幸せになるようにしましょう。 ママの生命が膨らみ、輝き始めれば、赤ちゃんや子どもの生命も“オノズ”と輝いてきますよ」があります。

晴れ渡った明るい秋の月夜、その月の光を浴びながら、元気に帰っていくNちゃんとママの後ろ姿の輝きを、嬉しい思いで消えるまで見送っていました。

* ミュージカル『オズの魔法使い』は、子ども達に、 “知恵と勇気と心の大切さ”を伝えるために作られた作品です。大魔女イブリ-ーンをみんなの力で倒し た後、オズの魔法使いからご褒美に、知恵の欲しかっ たカカシは知恵の象徴『帽子』を、勇気の欲しかっ たライオンは『マント』を、そして心が欲しかった ブリキマンには『ハートのリュック』を貰えるシー ンが演出されています。

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