ボディートークコラム

スピーチ,その他であがらないために

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スピーチでアガッてしまったという経験を誰しもがお持ちだろう。声はふるえるし、膝はガクガクする。手のひらや足の裏、わきの下などに汗がタラーッと流れて、頭の中はまっしろとなる。こういう経験はできることなら、したくはないが、その場に立つとどうしようもない。
 

一口にアガルと言うが、では、一体何がアガルのか。実は息なのだ。緊張のあまり息が上がるのである。脳は緊張のイメージができると、呼吸筋が収縮する。

呼吸筋はミゾオチを中心に収縮するので、息はそれより下へ降りることができない。だから息は浅くなる。アガッた息というのは早く、激しく、不規則で、浅い息なのである。

早い息は動きを速くさせる。それに不規則な筋緊張が加わると、行動がとっさに出てしまう。さらに息が浅いと、思考力はあまり働かない。それでアガッてしまうと思わぬことを口走ってみたり、とんでもない失敗をやらかしてしまうのである。

息が上がれば降ろしてやればいいのだが、言うは簡単、行うは難しである。アガリをふせぐために人は胸に手を当てて深呼吸をしたり、会場の人をカボチャが並んでいるんだと思い込もうとする。

手のひらに「人」と書いて飲み込むマネをするおまじないまである。それではボディートークではどのようにするか、息を降ろす一例を述べよう。

講演会場へ車で出掛けた時のことである。大阪の北部、猿で有名な箕面山のドライブ・ウェーを通る予定であった。麓まで来て、私はどこをどう勘違いしたのか、旧山道に入ってしまった。山道といえども観光旅館やo店の立ち並ぶにぎやかな道である。

それでうっかりしていたのだが、行くほどに道が曲がりくねり、幅も狭くなってから、やっとコースの勘違いに気がついた。
引き返そうかとも思ったが、百メートルほど上方にドライブ・ウェーが見える。

ひょっとしてこの山道をさらに行けば、ドライブ・ウェーに続いているのではないか。道幅は車一台でもう一杯というほど狭いが、タイヤの跡も残っている。行ける!と確信して私は強引に進んだ。
最後は急な坂ではあったが、ドライブ・ウェーは目前に迫り、道はまもなく合流するはずだ。やれやれと一安心して急坂を登り切った。その上りきった道の真ん中に太い鉄パイプが3本、打ち付けてあった。通行止めである。

ドライブ・ウェーをスイスイ流れていく車を目前にしながら、私の頭はガンと石のように固くなり、動悸は激しく、背中に冷たい汗がツーと走った。万事休すである。
 

引き返すしか方法はない。結論は一瞬のうちに出たが、しまった、と激しく後悔しているから息はアガッている。アガッた息で行動すると、今度は車の運転そのものが危険である。こういう時こそ、ボディートークの出番である。

私は車を降り、「アー」と発声しながら腰をブルブルと揺すった。ボディートークの「声ゆすり」である。数回行えば息は降りる。その間十秒。あせった心や体のこわばりは瞬時に消えた。

そして心の中で、自分の今、置かれている状況を肯定的に認めた。「そうか、この忙しい最中に、神様はドライブ・テクニックの練習をさせてくれている」
気分はすっかり楽しい方に変わった。窓を大きく開き、腰から後ろへ振り向いて、口笛を吹きながら、私は狭い急坂をバックで下り始めた。

アガッた息を元の落ち着いた状態に戻すには、ボディートークの「声ゆすり」が有効である。私は講演の直前に控え室でこれを行う。すると息が楽になるので、歩き方もスムーズになる。
実は、壇上に立つ人がしゃちほこ張って固い声で話すから、会場の空気も固くなるのだ。

控え室で体をゆすり、楽な息で壇に登り、そのままの息であいさつを始め、すぐに本題に入る。これが私のアガリ防止法である。

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