ボディートークコラム

氷山に例えれば意識は水面下に

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心の働きは必ず体に表れる。どんなに隠そうとしても息の仕方や仕草、何気ない言葉の端々にポロッと出てしまう。 ただ人はそうそう他人の微妙な行動にまで注意を払っていないから、気付かないだけのことである。見る目のある人 が見れば瞬時にバレてしまう。 

先日、私は家族そろって、レストランで食事をして いた。隣の席には就職が最近決まったらしい若者と、その親戚らしい中年の女性が向かい合って座っていた。中年の女性はさかんに若者を激励している。周囲をはばからぬガラガラ声でしゃべりまくっ ているので聞くまいと思っても耳に入ってしまう。

「あんたナァ、会社に入ったら真っ先にぶつかるのが 人間関係や。そやけど絶対、ガァ(我)張ったらアカン で。どないに気ィ合わん奴でもニコニコしとくのがコツや。ウチら会社におった時は、嫌いなんてこと煙にも出さんかったでぇ。」 

その言葉を聞くや否や、それまで澄まして食事をしていた私の娘二人は、口に手を当てて必死に笑いをこらえている。私も思わず顔を見合わせてつい笑ってしまった。 

その女性には失礼になって申し訳けないが敢えて述べよう。「おくびにも出さん」と いうところを「煙にも・・・」という言葉になっているのが何とも新鮮であったが、それにも増して面白かったのは、その女性が嫌いな感情を隠し通したつもりになっていることである。これだけ開けっ広げで豪快な人間が、ありとあらゆる場面で気遣いをして自分の内面を出さないようにする、などと言うことは出来っこないのである。 

ご存知のように人間の脳の働きは氷山に例えられる。意識というのは、水面上に顔を出した氷山の一角みたいなものである。大部分を占める無意識の働きは水面下にある。 人間の行動も同様である。意識的に動いている部分はほんの僅かで、大部分の行動は 無意識下に行われる。そして無意識の行動に本心が表れてしまうのである。 

私が高校を退職して、初めて企業の社員研修で講演した時のことである。当時はボディートークという名前すら付けていなかったので、企業の担当者も受講生たちも私がどんなことをするのか知らなかった。 

会場に入ると全員がノートを机の上に広げ椅子に整然と座っている。「人間関係をス ムーズにするには?」という演題だったので、すっかり心理学の講座と間違われたようだ。 

私のやり方は、体を使い声を出して、全身表現の中で人間関係を解明していく、体ぐるみの思考方法なのだ。従って会場には黒板一つあればいい。あとは何もないフロアーで 自由に体を動かすことができればいい。 

早速みんなに机と椅子を片付けてもらった。すると床に細かいゴミが目立つ。掃除機をかける時間が惜しいので、全員で一分間、ゴミを拾うことにした。 一斉に始めて、三十秒ほどたった時、私は笛を吹いて拾うのをストップしてもらった。 そして「突然止めて申し訳けないが、ここで自分の手の中にあるゴミの数を数えてほしい」と指示した。 

最高は十二個であった。この人は本気で拾おうとし た人であり、他を抜きんでていた。数個拾ったという人も多かったが、まず良心的と言えるだろう。ところ が一個だけという人がなんと全体の三分の一もいたのである。 

こういう人は形だけのゴミ拾いである。とにかく一 つ拾ったのだから、これで名目は立つだろう。あとは 掃除をやりたい者だけがやればいい、という考えである。 

そこで私は本音とは、無意識の行動にそのまま表れること、そして自分自身も気づかない本心が相手の無意識に働きかけて、それが人 間関係を作っていくのだという話をした。 

残りの三十秒はゴミ拾いで会場がスッキリと美 しくなったのは言うまでもない。 

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