ボディートークコラム

肩身の狭い思いとするとどうなるか

image_print

試験に不合格であったり、仕事上で大失敗などをすると、心の中で自分自身を責めるようになる。いわゆる肩身の狭い思いである。肩身の狭い思いは息を窮屈にさせる。息のあり方はその人の生き方であるから、自ら息を制限することによって自分に罰を与えているのである。この時、背中の上部、肩甲骨と肩甲骨の間がキュッと萎縮する。これが、私のいう「肩身の狭いしこり」である。

 母親でボディートークに通っている人がいる。娘さんが大学受験の頃であった。レッスンで背中ほぐしを指導していると、母娘ともども肩身がキュッとしまっている。「ハハーン、受験に失敗したな」と直感した。本人が何も言わなくても、背中のしこりで判断できるのだ。

二人ほぐしをすると母親の方が狭くなっていた。ということは、不合格のショックを母親の方がより強く受けているということである。そのしこりをほぐしながら、「えっ、分りましたか」と母娘で顔を見合わせた。しこりをほぐすと息が深くなって心に余裕ができるから、困難な事態も冷静に対応することができるようになる。帰り際に母親が、「実は昨日から、ものも言えなかったのです。でも背中ほぐしで心が落ち着きました。今後のことは、娘とゆっくり話してみます」と、いつもの穏やかな表情に戻っていかれた。

肩身が狭くなると息が苦しくなる。さらに極端に肩身が詰まってくると、発作的に乱暴な行動が出てしまう。次にその一例をのべよう。

M君が高校に通学した。受験直前に父親の特訓によって、本人の志望より1ランク上の高校になんとか合格したのだった。大きな体を縮めて少し内気な生真面目な少年である。ところが1学期末の試験日から登校拒否が始まった。マンションの自室に閉じこもったきり、一歩も外へ出ない。3学期にもなって両親の説得がいよいよ厳しくなったところで、家にある物を手当たりしだい、向かいのマンションに投げつけ始めた。当然マンションから苦情が出る。一日中、M君から目が離せなくなって母親はノイローゼ気味になった、M君を病院やカウンセリングに連れて行ったものの、好転しなくて、縁があってボディートークへやってきた。

さっそくM君の背中を調べてみると、肩身がしっかり狭い。そのため声も出ない。こういう場合は私の方も息をひそめて、ゆっくりと、ていねいに対応しなくてはいけない。やがて背中ほぐしが進むと、少しずつ声が出るようになった。すると腰が徐々に伸びてきた。肩身の狭い人がしだいに腰をかがめるよういなるのは、犬で言えば尻尾をうちへ巻き込んでいるのである。M君の腰も尻込みの状態になっている。これでは気力も出ない。

 M君には肩身を広げる運動を指導した。すると、その日から物を投げなくなった。理由はこうである。

 人は息ができなくなると暴れる。その瞬間には善悪の判断など吹っ飛んでいるのだ。M君は両親から責められ、自分自身も責めて、その思いが息を窮屈にさせていた。そして、その思いが極限に達した時、息ができなくなる。その瞬間、周りの物をつかんで思いっきり遠くへ投げつける。すると、呼吸筋がいっとき緩んで、一息つけるということなのだ。

 一ヶ月ほど通うほどに、M君の背中はほぐれていった。腰も伸び、声も普通にでるようになり、笑顔もこぼれるようになってきた。その折、母親から「おかげさまで、Mがやっと食卓で食事をするようになりました。」という電話をもらった。どういうことなのか尋ねてみると、M君は登校拒否が始まって以来、食事はトイレに閉じこもって一人で食べていたとのこと。息を緩めないと、食物はノドを通らないから、M君は一人でないと食事ができなかったのだ。

M君の心と体の状態を両親も納得して、やっと家庭でまともに話し合えるようになった。今、M君は自分の学力にあった別の高校へ元気に通学している。

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

PAGE TOP